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8mm

凌ちゃんが本当にほもだったら……(爆)

という完全に空想のお話。

閲覧注意








あの人と初めて出会ったのは16歳の時。

 


地元の小さな映画コンクールが開かれていて
すごく興味があったというわけではないけど
たまたま通りかかって

なんとなく、ぼんやりと、
受賞作品を眺めていた。

 


その中で優秀賞に選ばれた作品が
なんだか妙に自分の中で心惹かれるものがあった。

 

 

家族をテーマにした暖かい作品。

俺みたいな家庭には無縁だけど。


この作品を作った人はきっと幸せなんだろうなぁとか

初めは単純にそう思った。


でも、なんだろう

 

観終わった後に

ぽっかりと空いた心を埋めてくれるような
ぽっと心に灯をともしてくれるような

 

そんな気分になって
なんだか心地が良かった。

 

 

この作品を作った人は一体どんな人なんだろう?

男なのか女なのか?

年齢は幾つくらい?

家族をテーマにしてるし結婚してる人?


色々な疑問が頭の中をぐるぐると回っていた。

 

 

 

 

 

「キミ、映画に興味あるの?」

 

 

いきなり後ろから声を掛けられた。


振り向くとそこには30代半ばくらいの男性が立っていた。

「あー……えーと」


まさかこれ俺が撮った映画なんだ。なんて漫画みたいな展開になったりしないよな?なんて考えながら言葉に詰まらせていると

 

 


「これ、俺が撮ったやつ」

 


おいおい、
ビンゴかよ

 


本当に漫画みたいな展開で思わず吹き出しそうになった。

 

「へぇーおじさんすごいね」
「いきなりおじさん呼ばわりとは……」

 

「………俺、この映画好きだなって思ったよ」

「お、見る目あるねぇ。なかなか良いだろ」

「それ自分で言っちゃう?」

思わず笑ってしまった。


「映画作るなんて夢みたいなこと言わないでって嫁には怒られるんだけどな」

 

「へー」


あ、奥さんいるんだ。

 

「でも映画作りは本当に楽しいから」

「ふーん……」

「キミも作ってみたいと思う?」

「え?俺が?」

「アシスタントみたいな人がいればもっと色々作れるのになぁーとか思っててさ」

 

いやいや、急すぎでしょ

何言ってんだこの人。

 

 


「俺は映画作りで人生が変わった。
もちろん良いことばかりじゃないけどな、この道を選んで良かったって思ってる」

 

 

 

〝キミも人生を変えたいとは思わないか?〟

 

 

 

 


その一歩を踏み出したら何が変わる?

 

 

その一歩を踏み出して

 

 

不幸になったらどうするの?

 

 

 

 

 

そういえば小学2年生の時に
同じ様な自問自答が

あったような気がする。

 

 


俺はあの時と同じように

やっぱり心の何処かで

変わりたいと思っているんだろうな

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば」


「?」

 

「キミ名前は?」

 

「凌……」

 

 

「凌。いい名前だな。」

 

 

 

こんな風に言われたのは初めてで

なんだか凄く照れくさくて

でも素直に嬉しかった。

 

 

 

 

 

あの人は昔作った映画もあるから良かったら見てみるかと俺をダビングマックスという8ミリビデオのダビング屋に連れてってくれた。


ここでアルバイトとして働いているらしい 。

 

30歳超えてアルバイトとか

まじでやばいと思う。

 


当時の俺はそう思ってたけど
まさか自分も同じ道を辿るなんて

この時の俺は考えもしていなかっただろう。

 


若い頃に作ったという過去の映像を見せてもらった。

考えさせられるようなもの、笑って泣けるようなもの、内容は様々で


なんだろう、どの話も嫌いじゃない、


というか多分好きなんだろうな。

 

 


少しづつ興味が湧いてきた俺は
アシスタントとして映画作りの手伝いをする事を引き受けた。

 


仕事が終わる頃を見計らってダビング屋に行って、休憩室で一緒に弁当食って次撮る映画の話し合いをしたり……

 


撮影するために色んな場所へも行った。

初めて行く土地、初めて見る景色

全部が新鮮で本当に楽しかった。

 


長い長い撮影の後は

深夜まで映像を編集したりして

編集のやり方なんて分からないから、
教えて貰いながら少しつづ覚えてった。


そんなことを


春夏秋冬繰り返して、


繰り返して


繰り返して


繰り返して

 

 

 


気が付いたら俺もだいぶ歳を重ねていた。

 

 

あの人と同じ道を辿るように

俺もダビング屋でバイトを始めた。

 

 

 

あれから何年経ったのか


あの人はコンクールで最優秀賞を受賞して
それ以来、映画を作るのをやめた。

今はアルバイトを辞めて、ダビング屋の店長として働いている。


今でも仕事の休憩中に撮影の話をしたり

俺の作った作品を観てアドバイスをくれたり

 

 


あの頃と


関係性は何一つ変わっていない。

 

 


もう随分前に芽生えた
この感情が何なのか、


気付いてはいけないと

 

 

気付かないように


気付かれないように

過ごして来たんだ

 


ただ傍に居れればそれでいい


それだけで充分だったから。

 

 

 

 


俺が最期に撮りたいと思った

家族のドキュメンタリー映画

これを撮り終えたら

この店も辞めて、ちゃんと就職しよう。

 

 

 

 

 

きっとここを離れても


あの人への気持ちは

この先変わることなんて無いんだろうけど。

 

 

 


いつから好きだったんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


『キミ名前は?』


『凌……』

 


『凌。いい名前だな。』

 

 

 

 

 

 

 


あの時、

 

もしかしたら


出逢ったあの日からもう好きだったのかもしれない。

 


なんて

少女漫画の恋する乙女かよって

言いたくなるようなこの感情に

 

 

今日も


この先も


ずっと

永遠に蓋をして。